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店主のつれづれなるままに コアアートスクエアからのお知らせ

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2022年05月13日

盆栽も音楽も、心を見つめる鏡

冬を堪えた枝先には、新芽が拝むように手を合わせて膨らんでいる。枯れたかに見える盆栽たちもやがて賑やかに花や葉を身にまとうだろう。

清楚な佇まいで甘く匂っていた梅はすっかり花を散らして、新葉の萌え出る時を待っている。一刻一刻と樹に漲るものを感じさせる盆栽たち。それに向き合う静かな時間は、生命の音楽を聴く至福の時間でもある。

十鉢ほどに増えた梅盆栽に加え、黒松や五葉松などの松盆栽がわが店の駐車場を侵食する。僕の盆栽開眼はそもそも弘法大師の導きだったのではなかったか。

ちょうど10年前の2月21日だった。「The Who-hooo」で赤穂の演奏会を終えての帰り、弘法大師ゆかりの京都の東寺に立ち寄った。その日が弘法市の立つ縁日だとはつゆ知らず赴いたのだった。

広い境内の一角には骨董品やら衣類やら珍味を扱う露店がずらっと軒を並べ、多くの客で賑わっていた。後で知ったが、民藝運動で知られる柳宗悦や河井寛次郎なども昔、よくこの弘法市には来ていたらしい。一つ一つの露店を見歩くだけでも心愉しい。

北大門を出ると観智院という密教の勧学院があって、その前が櫛笥小路という平安時代から道幅のかわらない小路で、そこにも露店は並んでいた。道端に屈んで接客する女店主の店で、目に飛び込んだのは気品漂う満開の白梅だった。僕はすっかり魅せられて買って帰りたいという衝動に襲われた。

樹高は数十センチだが、鉢ごと持てばそれなりの重さはある。抱えて新幹線で帰るとなると俄かに買うことは躊躇われた。仲間たちは手伝うよと優しい言葉をかけてくれたが、家までの行路を思うとあきらめざるを得なかった。

帰宅してからもずっと梅のことが気になった。翌日、教室の帰りに近所のグリーンセンターに直行した。東寺で見たような見事な梅の樹はなかった。それでも何本か売られているものの中から、一本の白梅を買った。それがいまに続く盆栽道楽の始まりだった。弘法大師には感謝しかない。

盆栽も音楽も畢竟、己の心を見つめる鏡ではないかと心底、思っている。(「ハーモニカライフ」2021年春 92号より転載)

 

 

 

 

 

 

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