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店主のつれづれなるままに コアアートスクエアからのお知らせ

2007年05月02日

中也、生誕100年

中也が生前愛用したという厚手の黒いオーバーコートをガラスのケース越しに見つめていると、身の丈五尺何寸かの小柄な中也が山高帽を頭にのせて、ひょっこりといまにもそこに現れ出そうに思われました。いえ、もっと正確に言えば、まっすぐに澄んだ瞳を輝かせて、本物の中也がそこに立っているのを確かに僕はみたような気がします。

〈中原中也は、詩とは何か、詩人とは何かということを、短い生涯のなかで一途に考え続けた人である。詩と生活が一体である、と思えるほどに、全身で詩について考え、詩を作ったと言っていい〉(佐々木幹郎)

僕はまたもガラスケース越しに、中也の残した詩の草稿や手紙、日記をみる。そして丹念に一文字一文字を追う。時を経て黄ばんだまぎれもない中也直筆のそれらの書き物からは、中也の震えるような魂の律動が伝わってきます。

ああ、中也、愛を、詩作を懸命に生き、生きることの意味を深く深くみつめたその鋭いまなざし。あなたの生きざまを知ってしまった者にはあなたの言葉の一つひとつが心に深々と鳴り響くのです。

『生ひ立ちの歌』(第1連のみ引用)

幼年時
私の上に降る雪は
真綿のやうでありました

少年時
私の上に降る雪は
霙(みぞれ)のようでありました

十七-十九
私の上に降る雪は
霰(あられ)のやうでありました

二十-二十二
私の上に降る雪は
雹(ひょう)であるかと思はれた

二十三
私の上に降る雪は
ひどい吹雪とみえました

二十四
私の上に降る雪は
いとしめやかになりました・・・・

30年という中也の短い生涯は、いのちの火花を散らすように激しく、濃密な生の時間でもありました。

〈かくて私には歌が残った。
たった一つ、歌といふがのこった。

私の歌を聴いてくれ〉

この4月29日に生誕100年を迎えた中也の生の軌跡は、いま横浜の神奈川近代文学館で見ることができます。

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